シガレット

 店の中からみえる外の通りは、日差しが、アスファルトを真夏のように照らす。目が焼けるように眩しい。真夏の真っ只中にケンタッキーで一休みしていると錯覚する。通りをすぎる人たちがまだ冬の終わりの服であることがその季節を教える。男は、トレーにざらはいを載せ、窓ごしのカウンター席の俺の隣に座った。トレーのざらはいに目が行く。と、男はおもむろに取り出したラッキーストライクを咥えた。
 なんだよ、そのラッキーストライクってのは。洋モクならマルボロだろう。
 隣にいるおれなぞを無視して、そ知らぬ顔で男は、火をつけた。隣に座っている俺には男の顔は見えない。男の雰囲気がそう感じさせた。煙がゆれる。あのまずい味が鼻先をつく。「くせえ」「なにすってんだよ」
 殴るようにぶつける。睨む。男は無視する。一瞬、無視し、立ち上がる。男の足がカウンターをけり、おれのコーヒーがゆれる。それに目をやった隙に、頭をはたかれる。奴だ。男は敵になっていた。頭にスイッチが入り、切れる。ボンとフューズが飛ぶ。暗闇。そして血幕の映像。
 敵がいなくなる。しばらくして、頭にスイッチが入る。奴が倒れている。左瞼の上、額が切れているようだ。赤い映像。手の甲でぬぐう。入り口には警官が入ってきてこちらをみている。何かを言っている。わからない。警官は黒の皮コートを着ている。何を言っているんだ。俺に。
 俺は立っていた。カウンターごしに外の景色をみていた。ただ、違ったのは通行人がのぞきこむように、俺をガラス越しにみていた。